呼吸は酸素を体内に取り入れる大事な作業です。酸素を多く消費するロードバイクで速く走る為には、呼吸法のマスターは欠かせないと思います。そこで今回は、実験などもふまえて、ロードバイクに合った効率的な呼吸法について深く掘り下げてみます。
【目次】
呼吸は意識して改善しよう!
呼吸は誰でも自然にできます。ロードバイクでも普通に走る分には何もする必要はありません。ただ、ロードバイクは意外と運動量が多いスポーツで、その運動量に見合うだけの酸素をしっかりと体内に取り入れている人は少ないのです。
自分の持つ運動能力を最大限に生かすには、効率的に体内に酸素を取り入れなければいけません。ロードバイクで楽に速く走りたいならば、トレーニングから正しい呼吸を意識して改善しましょう。
ロードバイクで行う呼吸の特徴
一言で呼吸法と言っても、そのスポーツによってやり方は違います。ボクシングのように頻繁に動きまわるスポーツもあれば、ゴルフのように一瞬の動きしかないスポーツもあります。この運動量の違いで理想の呼吸法は違ってきます。ではロードバイクはスポーツの中でどの程度の運動量になるのでしょうか?他のスポーツと比べてみましょう。
スポーツ別 呼吸の強度
スポーツの運動は静的運動と動的運動に分けられます。静的運動とは、動きが少ないけど筋肉を使う重量挙げのような動きです。反対に動的運動は大きな動きをともなう運動の事です。
各スポーツは下の表のようにわける事ができますが、ロードバイクは筋力を使ってフォームを維持しつつ力を使って高速でペダルを回転させるので、高度動的、高度静的という分類になります。つまりロードバイクは、筋肉のパワーと、高い持久力両方を高度に使うスポーツなのです。呼吸法を改善すれば大きな成果が期待できますね!
マラソンとロードバイクの呼吸を比較
ここでちょっとマラソンとロードバイクの呼吸を比較してみましょう。ロードバイクは上半身がブレませんので、呼吸器である肺もムダに動きません。対してマラソンは、上半身を振って体全体も上下するため肺はブラブラ動くので呼吸法に気をつかいます。なので、マラソンの呼吸に関する情報はロードバイクよりはるかに多いですよね。
マラソンは呼吸器が動くので「呼吸のリズムを意識したほうがいい」と言われています。では、呼吸器が固定されているロードバイクはリズムを取る必要はないのでしょうか?もしかしたら何かノウハウがあるかも・・。この点は実験で明らかにします。
そもそも呼吸って何?
呼吸とは、口から吸った空気が肺に入り、肺の中の肺胞で血液に酸素をわたして体中に送り、二酸化炭素を受け取ってそれを口から吐き出す事です。
また、呼吸は外呼吸と内呼吸に分けられてます。外呼吸とは空気を吸って体内に酸素を取り入れて二酸化炭素を体外に排出する事です。内呼吸は、各臓器の細胞が血液から酸素を受け取って、細胞レベルで酸素を消費して二酸化炭素に変える事です。この記事では、主に外呼吸に焦点を当てています。
良い呼吸とは?
では良い呼吸とは何でしょうか?呼吸器は一般的に「余力がある臓器」と言われています。肺を半分取っても人は問題なく生きていけるほど余力があります。
健康な人はマックスパワーを出し切っても呼吸の限界にはなりません。呼吸より先に心臓が限界を迎えてしまいます。対して心拍数は簡単に限界を迎えます。大体どんな状態でも呼吸には余力が残っているのです。
ただ、呼吸器の病気や姿勢で呼吸が妨げられると、呼吸に障害がでてきます。そこで呼吸の良しあしを測る目安として換気量(体に出入りする空気の量)があります。ロードバイクのように高い有酸素能力が必要なスポーツでは、換気量をできるだけ多くする事が重要となります。
空気を多く体内に取り込むには?
空気を多く取り込む換気量を上げるには、姿勢が大事です。ではどうすれば換気量は上がる姿勢となるのでしょうか?その方法をまとめます。
肺は動かない
心臓は自分で動いて血液を送り出しますが、肺はスポンジみたいなものでみずから動きません。肺は横隔膜などの筋肉が動いて肺を縮めたり膨らましたりします。
そして、換気量に大きく影響するのは肺の下側です。重力で肺の下側には体中に酸素を送る血液が多く集まっていますし、肺を動かす横隔膜は肺の下にあるからです。なので、換気量を稼ぐには横隔膜が正常に動く状態に保つ事が重要なのです。
猫背は不利なのか?
換気量を稼ぐために横隔膜をしっかり動かすには姿勢が大きく影響します。横隔膜は息を吐くときに緩んで上に上がります。反対に息を吸う時には、横隔膜が収縮して下に下がってピンと張った状態になります。
呼吸にとって有利で換気量が上がる姿勢とは、ズバリ背筋をピンと伸ばす事。背筋を伸ばすと胸郭が前後に狭くなるので、横隔膜が緩んだときと張ったときの差が大きくなり換気量が増えます。
猫背の姿勢だと胸郭が前後に広くなるので、横隔膜が引っ張られてしまい、緩んだときと張ったときの差が小さくなり、換気量が減るのです。また、猫背だと腹圧で思いっきり息を吸うことが難しくなります。つまり、ロードバイクのような前傾姿勢は呼吸だけみれば不利なのです。
口呼吸と鼻呼吸
スポーツ時の換気量の割合は、「口呼吸7:鼻呼吸3」くらいの割合です。30%くらいのゆるい運動強度までは鼻呼吸のみで行けるようですが、それ以上になると口呼吸も使うようになります。
しかし、鼻呼吸の方が湿度の調整ができ、ホコリなどが肺に入りにくいので取り込む空気の状態が良いというメリットがあります。ただ、運動強度が上がったら無理せず口呼吸しましょう(笑
空気抵抗とパワーのバランスも大事
ここまでをまとめると、ロードバイクは上半身が固定されているので呼吸がブレない点は有利ですが、前傾姿勢のフォームは呼吸に不利です。しかしロードバイクで速く走るのは、呼吸以外に空気抵抗やペダリング効率などの要素が絡んできます。もし、呼吸の事だけ考えて背筋を伸ばしてしまうと、空気抵抗が増えて結果的にキツくなってしまいます。
このように、ロードバイクには空気抵抗、ペダリングのパワー(体重を使える姿勢)、呼吸のしやすさなどのバランスを考える必要があります。このようなバランスを考えながらいかに呼吸の効率を上げていくかが重要なのです。
速く走れる呼吸法を実験検証
ロードバイクで無理して走っていると呼吸も早くなっていきます。一般的に「酸素が足らなくなるから呼吸が早くなる」と思っている人が多いですね。本当にそうでしょうか?軽く実験をしてみます。
実験① 息止めチャレンジと低酸素室での数値
実験には血液中の酸素濃度を計測するパルスオキシメーターを使います。一般人の平常時の血中酸素濃度は98~99です。このパルスオキシメーターを装着したまま限界まで息を止めてみます。
そうすると、みるみる数値が下がり1分で我慢できなくなった時の血中酸素濃度は90前後となります。人体は大体90くらいで限界を迎えてしまいますが、この90という数値は医療では酸素吸入が必要なレベルです。
ではこの結果を踏まえて次は、低酸素室に入って安静時の血中酸素濃度を測ります。普通の空気は酸素濃度21%なのですが、この低酸素室の酸素濃度は16%となっており、標高2000mに匹敵します。
この低酸素室にパルスオキシメーターを装着して入ると血中酸素濃度はどんどん下がって90以下に!しかし、入った人は苦しそうでもないし、息も上がっていません。この事から、体の中の酸素が減ったから呼吸が苦しくなるという考えは間違いという事がわかります。
では何が呼吸を苦しくするのでしょうか?答えは「体内に溜まった二酸化炭素」が呼吸を早くして苦しくするのです。つまり体内に二酸化炭素が溜まらなければ呼吸は苦しくならないのです。
実験② 低酸素室で低負荷ペダリング
次に低酸素室でペダリングしてみると、血中酸素濃度は80まで低下してしまいました(怖 これは低酸素室じゃなかったら命にかかわる数値です。しかし、走っている人はしそこまでキツくありません。当然、呼吸も安定していますが、血中酸素濃度はどんどん下がるので運動能力は下がっていきます。
そこで必要なのが楽に速く走れる呼吸法です。呼吸を体任せにせず、意識してたくさんの空気を効率的に取り入れるようにします。そうすれば、血中酸素濃度の下がりを抑えられ高い運動能力を維持できるのです。
空気を効率的に取り入れるコツは、呼吸をペダリングとシンクロさせる事です。こうすると体幹が安定しペダルに体重を乗せやすくなり、自然と換気量も増えるのです。また、息を吸う時よりも吐くときの方が腹筋群が収縮して体幹がさらに安定するので、息を吐くタイミングとペダルを踏みこむタイミングを同じにするといいでしょう。
ただ、ケイデンスが上がったときに息を吐くタイミングとペダルを踏むタイミングを合わせるのは難しいですよね。そういった場合は「吸う・吸う・吐く・吐く」のように呼吸法を変えましょう。最初は慣れないかもしれませんが、意識して練習すると呼吸筋が鍛えられますし効率的な呼吸も身に付きます。もし、呼吸法が自分に合わない場合は、ちょっと工夫して変化を加えるのもいいと思います。
実験③ 呼吸法を変えて効果を見る
低酸素室でパルスオキシメーターを指にはめ、息を吐くタイミングとペダルを踏むタイミングを合わせてみます。そうすると、80前後まで下がっていた血中酸素濃度が90後半まで回復しました!この事から、呼吸法を変えれば大きな成果が見込めると分かりました。ぜひ、皆さんもやってみてください。
家でローラー台を使ってトレーニングする人は、パルスオキシメーターを使って血中酸素濃度を測りながら、いろいろな呼吸法を試してみてはどうでしょうか?ケイデンスごとに自分にとって一番効率が良い呼吸法が見つかるはずです。
口すぼめ呼吸と声だし呼吸
体内に効率よく酸素を取り入れるには、肺の内圧を上げる事も有効です。酸素が血液の中に入る原理は圧力差だからです。そして肺の内圧を上げるには、口すぼめ呼吸がおすすめです。口をすぼめてロウソクの火を消す感じでフーッと息を吐くのです。
ただスプリントやヒルクライムでは、口すぼめはキツいので難しいです。そんな時は吐くのに合わせて大きめにハーッハーッと声を出すと整体が狭くなるので無理なく肺の内圧を上げられます。
プロに学ぶ呼吸法
プロは楽な呼吸の為にどんな工夫をしているのでしょうか?簡単に紹介します。
ツライ時ほど正しい呼吸を意識する
普段から呼吸を意識してトレーニングして、キツイ場面でもしっかりと楽な呼吸ができるようにします。やはり普段からの意識付けが大事ですね!
しっかり吐く
吸うよりも息を吐くことを意識します。しっかり吐くことで、自然と息を吸うことにつながります。
肩甲骨を開く
肩甲骨を開くフォームにすると体の屈折が軽減されて息の通りが良くなります。背中を丸めて肩を落とすと息の通りが悪くなります。
ヒルクライムでの手の位置
ヒルクライムで上ハンを持つと腕が狭まるので鋤骨と肺が圧迫されて息の通りが悪くなりがち・・。そんな時は、ブラケットの浅い位置をもってリラックスするといいですね。
まとめ
- トレーニングから楽な呼吸法を意識して体に覚えさせる。
- ロードバイクはハードなスポーツなので、呼吸法で成果が変わる。
- 換気量を増やす呼吸法を心掛ける。
- 呼吸法と同時に空気抵抗やペダリング、フォームのバランスも考える。
- トレーニングにパルスオキシメーターを使うと血中酸素濃度が目安になる。
- ペダリングと呼吸のタイミングを合わせる。
- 口すぼめ呼吸や声出し呼吸で肺の内圧を上げる。
- ハンドルを持つ位置、姿勢、フォームなどを呼吸がしやすいよう見直してみる。