ロードバイクなどのスポーツ自転車にかかる走行抵抗は、約80%が人体による空気抵抗に占められます。しかしながら、BB(ボトムブラケット)やホイールのハブ、リヤディレイラーのプーリーなどのベアリング摩擦抵抗もバカにはできません。
特にロードレースに参加する本格志向のライダーや、ロングライドでも快適に速く走りたいライダーにとって、各ベアリングの抵抗は気になる所です。そこで、各メーカーによってBB、ホイールのハブ、プーリーのベアリング構造がどう違うのかをまとめました。パーツ選びの参考になると思います。
ベアリングとは?
ベアリングはパーツが軽く回るように工夫された軸受けのことですね。BBでいえば、フレームに取り付けたクランク軸が円滑に回るようにベアリングが使われています。
構造は、外輪と内輪の間に複数の小さなボール(転動体)を並べて、それを保持器が支えています。複数のボールが円滑に回転することで、わずかな抵抗で外輪と内輪を回転させる事ができるのです。また、ベアリングは回転を滑らかにするだけでなく、荷重を支える頑丈さもあります。
そしてボールの素材には大きく分けて鋼鉄製とセラミック製があり、セラミック製はグリスが不要なので、定期的なメンテナンスが面倒ですが抵抗を抑えられるメリットがあります。
ホイールのハブ
まずはホイールのハブから見ていきましょう。マヴィック、シマノ、カンパニョーロという3大ホイールメーカーを挙げました。よく観察することで、3大メーカーの設計思想の違いがわかります。
マヴィック/キシリウムプロSL
マヴィックからは、代表モデル「キシリウムプロSL」のハブを取り上げます。大きな特徴は「与圧調整機構」で、ベアリングの剛性を高め、なおかつ寿命を伸ばしている点です。
与圧調整機構とは、キャップ(②)をネジで押しこみ、ベアリング(③)を与圧をかける仕組みのことです。与圧をかければ、ベアリング内部の微妙な隙間が無くなり、より多くのベアリングボールが荷重を受けるようになるので剛性が上がります。そして、荷重が分散されることでボールの摩耗が抑えられ寿命が延びるのです。
【マヴィックのハブベアリング】
マヴィックのベアリングシールは接触タイプが使われています。シールとは、ベアリング内部に水や汚れが侵入しないように保護している部品で、接触タイプは、回転がやや重いですが、ベアリング内部をしっかり保護します。「マヴィックのホイールは回転が重い」と言われますが、それはこのベアリングに要因があるのかもしれませんね。
また、ベアリング内部の隙間はCN(一般的な隙間の大きさ)よりやや大きいC3となっています。あえてC3を採用ているのはいろいろ考えられますが、与圧をかけたときにより大きな接触角を持たせて、荷重を複数のボールに分散させるためだと思われます。
ホイールはハブだけでは語れませんが、耐久性が高くネットリ回るホイールが欲しければマヴィックがいいでしょう。
シマノ/デュラエース
シマノはフラッグシップモデルのデュラエースを取り上げます。大きな特徴としては、ハブにカップアンドコーンを採用しています。カップアンドコーンとは、分解できるベアリングの事で、外輪と内輪、そしてボールと保持器を別々に取り付ける必要があります。対してマヴィックが使用するカートリッジベアリングは、基本分解不可となります。
カップアンドコーンを採用することで、ボールと保持器(⑥)を締め付ける力加減を自分で調整(玉当たり調整)できるメリットがあります。また、内輪にあたるコーン(④)はスチール製で、大径のアルミ製シャフト(⑦)にはめこんであります。この方式では、コーンとシャフトをかなりの精度で作る必要がありますが、デュラエースはほぼ完ぺきな作りとなっています。
さらにシマノは部品のボール→コーン→カップの順に硬度を上げているので、交換可能なボールとコーンが先に消耗する仕組みになっています。カップはシャフトに圧入されているの本交換不可です。
【シマノのハブベアリング】
シマノがカップアンドコーンを採用するのは他にも理由があります。できるだけ接触角をつけて荷重に強くすることと、ボールをできるだけたくさん入れて耐荷重と回転性能を上げるためです。
また、シマノにも異物混入を防ぐシール(⑤)は入っていますが、マヴィックのようにベアリング自体に厳重にシールを入れる構造ではありません。異物が入ってくる経路をふさぐよう各部品に角度をつけて防いでいます。
なのでシールも簡単なもので済み、回転を重くしません。やはりシマノらしく全体的な性能バランスが良い優等生な印象ですね。
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カンパニョーロ/ボーラウルトラ クリンチャー CULT
カンパニョーロからは「ボーラウルトラ クリンチャー CULT」を取り上げます。カンパのホイールはシマノと同様にカップアンドコーンを採用しています。ただちょっと違うのはボールを固定するのにコーン(④)そのものではなく、テーパースリープ(③)でコーンを押し込んでボール(⑥)を固定します。
この構造では走行中にテーパースリープが動いて調整が狂ってしまいそうですが、長い歴史を持つカンパの精度都と技術力で不具合は全く感じません。後はシマノと違ってカップも交換可能です。
また、ボールと保持器(⑥)の外側にあるシールはシャフトに当たらないので回転も軽いです。やや耐久性と防塵性能はマヴィックとシマノに劣りますが、回転性能はピカイチですね。ただし、定期的なメンテナンスは必要でしょう。
【カンパニョーロのハブベアリング】
今回取り上げるCULTベアリングは、特別にセラミックボールを採用したバージョンです。主にカンパニョーロのハイグレードホイールに採用されています。セラミックボールは粘度の高いグリスが不要なので、その分よく回ります。
しかも、CULTのボールは、高品質なベアリングを作ることで有名なドイツのFAGが開発提供しています。真面目で技術力が高いドイツ製ならば信頼できますね。とにかく回転性を求めるならカンパのホイールは選択肢にはいるでしょう。
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プーリー
自転車の回転部の中で最も回転数が多いのがリヤディレイラーに付いているプーリー。とはいえプーリーの回転抵抗よりチェーンとギアがこすれる抵抗の方が大きいのは確かです。
しかし、各コンポーネントメーカーはいろいろと工夫を凝らして回転性能を向上させています。さらに、変速を滑らかにするためにはガイドプーリーには左右方向へのガタに対応する必要があります。この回転性能と左右へのガタをどう両立させるかが重要ですね。
シマノ/デュラエース
シマノのデュラエースは、変速性能を優先させるためにプーリーの軸方向にあえてガタを設けています。そのためにかなり特殊なベアリングを採用。ボールを2つに増やして左右へ平行に動くガタを作っています。こうすれば、左右スライド機能を盛り込みつつ回転をより軽く、そして頑丈にできるのです。
また、グリスとシールも内包されているので、やや回転は重くなりますが、耐久性が高く異物の侵入を防ぐぎます。やはりシマノは各性能のバランスがいいですね。
カンパニョーロ/スーパーレコード
カンパニョーロのスーパーレコードは、上下のプーリーにセラミックベアリングを採用しています。またガイドプーリー(画像右)はシンプルに左右に動く「滑り軸受」にして、とにかく回転性能に振り切った作りですね。
また、防塵性能は構造を工夫して水やチリを防ぐ形なのでそこまで高くありません。
BB(ボトムブラケット)
クランク軸の回転を支えるBBは、他のパーツに比べて回転数が低く剛性と耐久性が特に重要なパーツです。
シマノ/BB-SM9000
シマノは9000系にモデルチェンジした際にBBの設計を大きく変えました。BBカップの外形を小さくし、回転性能を考慮しつつ軽量化に成功しています。中身はかなり複雑な構造となっていて、外側にあるスリーブとカバーが͡コの字型をしておりホコリを防いでいます。
その内側にベアリングと接触タイプのシールが入っています。しかも前モデルの7900系よりさらにシールが厳重になっています。BBは回転数が少ないので、回転性能より耐久性と防塵性能を重視したという所でしょうか。
ちなみにチェーンをかけない状態で、クランクを手で回すと1~5回転してすぐに止まります。思った以上に抵抗は大きいかもしれません。
【シマノのBBベアリング】
ベアリングはシマノ独自の特殊な規格サイズとなっています。 7900系は、ベアリング自体にシールが入っていましたが、9000系はベアリング本体の左右にシールを取り付けて回転が軽くなるよう進化しています。
またボールを小さくして15個から19個に増やすことで荷重容量が向上し、耐久性と回転性能が増しています。シールを厚くして防塵性能と耐久性を重視しつつ、回転性能にも工夫を凝らしてあります。素晴らしいですね!
カンパニョーロ/スーパーレコードCULT
スーパーレコードはBBもセラミックボールを使ったCULT化してあります。構造はシンプルでフレームに装着されるのは両端から軸を支えるBBカップのみとなります。
【カンパニョーロのBBベアリング】
クランクアームとベアリングの間にはシールがありますが、べアリング自体にシールはありません。また、CULTなのでグリスも塗布されていません。やはりカンパは耐久性や防振性能より回転性能をを重視した作りです。ブレないですね!
まとめ
ここまで、マヴィック、シマノ、カンパニョーロを比較しましたが、それぞれ設計の思想、重要視する部分が違いましたね。これはいい悪いではないので、ユーザーが自分の乗り方を考えて選べばいいと思います。