ヒルクライムのタイムを2時間から1時間半に縮めるのは、ある程度のトレーニングを積めば比較的簡単です。しかし、1時間10分から5分縮めるのは難しく、レベルが上がれば上がるほどトレーニングメニューに気を使う必要があります。
そこで、ある一定のレベルにあるライダーが更に進化するためのトレーニングメニューを具体的に紹介します。ターゲットは、普段は仕事をしていて、競技時間が1時間前後のヒルクライムレースを目標としている人です。
FTP値を指標にする
FTP値とは?
FTP値とは、トレーニング強度の基準となる数値で、筋肉疲労の原因となる乳酸を体が処理できなくなる段階を数値化したものです。簡単に言えば、「1時間持続できる最大パワー(ワット数)」のことです。この数値を基準に強度をいくつかのレベルに分けて、トレーニングの指標とします。
パワー(ワット数)を測るにはパワーメーターが必要となります。そして、ヒルクライムレースで上位を狙うのであれば、パワーメーターは必須アイテムといっていいでしょう。特に普段仕事がある人は、短時間で効率のよいトレーニングを行うために、自分の実力をリアルタイムで確認できるパワーメーターは大きな味方になってくれます。
パワーメーターがない人は、代わりに心拍数を目安にする方法を後に掲載していますので見てください。
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自分のFTP値を知る
FTP値には個人差がありますので、まずは自分のFTP値がどれくらいかをテストしましょう。ただ、1時間全力を出すのは難しいと思うので、20分間だけ全力で一定のパワーを出し切ってから、その平均ワット数の95%を自分のFTP値とします。
20分間走の平均ワット数×0.95=FTP値
また、20分間走るのは実走でもローラー台でもいいですが、実走は信号に引っかかったら正確な数値が測定できません。なので、実走で測定する場合は、長めの峠がおすすめです。勾配も一定の方が望ましいですね。
もちろんローラー台でもOKです。コツとしては最初飛ばして後半タレるより、抑え気味でスタートし、最後の3~5分で追い込むといいでしょう。なるべく20分間を一定ワット数で走った方が正確な数値が出ます。
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FTP値を元にトレーニング強度を管理する
競技時間が1時間前後のヒルクライムレースであれば、自分のFTP値がレースで走るペースの目安になります。そこで自分のFTP値を元に、トレーニング強度を6段階のレベルに分けてメニューを組み、効率的なトレーニングを行うのです。
効率的に鍛えるには自分のFTP値以上のトレーニング強度が必要ですが、やりすぎると逆効果です。FTP値を元にレベル分けをして、目的を明確にしたトレーニングのために強度を管理することが重要なのです。
下の図が、FTP値を元にトレーニング強度をレベル分けした表です。例えばFTP値が200ワットの人がレベル5のメニューをこなすとしたら、212~240ワットのパワー出力で走ればいいのです。
FTP値 200ワット × レベル5のFTP比 106~120% = 212~240ワット
レベル | 名称/目的 | %:FTP比 |
---|---|---|
L1 | アクティブリカバリー | ~55% |
L2 | エンデュランス | 56~75% |
L3 | テンポ | 76~90% |
L4 | スイートスポット | 88~94% |
LT | 91~105% | |
L5 | VO2max | 106~120% |
L6 | アネロビック(AC無酸素性運動) | 121~150% |
平日に30~60分で行うトレーニングメニュー
普段仕事がある人なら平日は30~60分のトレーニング時間が取れればいいほうじゃないでしょうか。なのでトレーニングメニューの前に、短時間でもトレーニング効率を上げるコツをまとめました。
- トレーニング前に最低でも10~15分はウォームアップをやる
- トレーニングは激しい運動になるので、おなかの中はなるべく軽くしておく
- トレーニング後はクールダウンを必ず行い、スポーツドリンクやフルーツで少し血糖値を上げる
- 1週間に1~2回は休養して筋肉を回復させる
後、1時間のヒルクライムレースは一定ペースで走るのが定石ですが、一瞬スピードを上げる無酸素運動も強化しておくといいですね。実際のレースではスタート直後からいきなりペースが上がり、徐々に落ち着くといったケースが多いからです。無酸素能力も鍛えておけば、勾配での変化でスピードを上げ下げしても先頭集団についていけるようになります。
結果、どんな状況にも対応できるトレーニングメニューが必要ですね。ここでは、目標とするレース本番まで3か月と想定して、平日に短時間で行えるトレーニングメニューを紹介します。
1か月目 高強度トレーニングに耐えるベースを作る
1か月目は、トレーニング強度が高くなる2か月目に備えて、無理なく筋力アップを目指すベーストレーニング期間となります。基礎筋力を鍛えながら、高ケイデンスで神経系筋力も鍛えます。
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で15~20分。
- メインセット1:重いギアでスタートし、1分間全力で踏みます。ギア比は1分経過時にケイデンス50~60回転くらいが目安です。これを1~2分の休憩をはさみながら4セット行います。ローラー台ではなく実走の場合は、シッティングとダンシングを交互に行い、毎回ハンドルを持つ位置を変えます。
- メインセット2:ケイデンス110回転以上を保ちますが、力を抜いてワット数を気にせず走ります。1分×4セット行い間に1分の休憩をはさみます。
- メインセット3:下りから上りに入る場所で15秒全力スプリント。
- クールダウン:L1(~55%)の強度で5~10分脚をほぐします。
2か月目 強度を上げてスピードアップ
さらなる高強度トレーニングで体に刺激を入れつつ、レースでの走りを意識する期間です。FTP値より高いL5(106~120%)領域でレベルアップを図ります。
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で15~20分。軽いギアの高回転で脚を温めます。特に強度が高いトレーニングの前はしっかりウォームアップをしましょう。
- メインセット:L5(106~120%)で3分間を4セットこなします。間の休憩は、L1(~55%)で3分間休みます。最後の1本のラスト30秒は静かにペースを上げて限界まで追い込むとさらに効果的です。
- クールダウン:L1(~55%)の強度で5~10分。
3か月目 より実践的なトレーニング
スタート時やアタックなどのスピードアップに付いていけるよう、より実践的な形のトレーニングを行います。
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で15~20分。軽いギアの高回転で脚を温めます。
- メインセット:FTP値200%のスタートダッシュを30秒(ダンシング15秒+シッティング15秒)行い、そのまま3分間L5(106~120%)を維持して走り、ラスト10秒で全力スプリントして1セットです。合計3分40秒。これを5分の休憩をはさんで4セット行います。体力と時間に余裕があれば2~3セット増やといいでしょう。
- クールダウン:L1(~55%)の強度で5~10分。
休日は本番を想定したトレーニング
時間がある休日は、自分が出るレースのコースプロフィールを把握して、より近いコースで実走トレーニングすると効果的です。もし、近くに長い上りがなければ、短い上り数本でレースと同じ距離を走り、L3ペースを1本増やすなど臨機応変に対応しましょう。
1か月目、2か月目、3か月目のトレーニング方針は平日と同じです。
1か月目
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で15~20分。最後の5分は少しだけペースを上げる。
- メインセット1:静かにスタートしてFTP値を5分維持。その後5分流す。
- メインセット2:L4(88~94%)で20分走を2セット。インターバルは5分軽く流す。地形は平坦もしくは緩斜面が理想です。後はL2(56~75%)で走ります。
- クールダウン:L1(~55%)で10分。
2か月目
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で15~20分。合間に1分間の軽いギアのハイケイデンス走を3セット入れる。
- メインセット1:20分のFTPを2本行います。1本目は前半L4(88~94%)、後半はFTP値の105%。2本目は前半L4のLT(91~105%)、後半は全力走。間の休憩は10分で、2本終わったら20分間流します。
- メインセット2:L5(106~120%)3分を2セット。休憩は2分で、ケイデンスは87~93回転。
- メインセット3:栄養補給後に30~40分をL3(76~90%)で走ります。
- クールダウン:L1(~55%)で10分。
3か月目
- ウォームアップ:L2(56~75%)強度で60分。最後の5分は少しペースを上げます。
- メインセット1:L5(106~120%)で5分。最後の1分は120~130%まで上げます。その後休憩5分。
- メインセット2:15分×3セット。1~2本目は、L4(88~94%)で走り、3本目は105%。休憩は5分です。
- メインセット3:L5(106~120%)3分を3セット。間の休憩はL2(56~75%)で5分走ります。
- クールダウン:20分のイージーライド。
データ管理で自分のレベルを知る
定期的にFTPを計測
トレーニング続けると、自分のFTP値が上昇していきます。それに合わせてFTPテストを定期的に行い、自分のFTP値を見直しましょう。大体、1か月に1回見直すといいですね。
さまざまなデータをチェック
パワーメーターを使うと様々なデータを確認できるようになります。データを分析して自分がどれくらい上達しているか確認すると、モチベーションも上がりますし、今後のトレーニングメニューの参考にもなります。
パワーメーターが無ければ心拍数を目安に
パワーメーターがないという人は、そこまで高精度ではありませんが、代わりに心拍数を目安にできます。FTPテストと同じ要領で20分間走った平均心拍数の95%がFTP値となります。ただ、レベルの分け方が若干違うので、下に心拍数のレベル分け表を作成しています。参考にしてください。
レベル | 名称/目的 | FTP ハートレート% |
---|---|---|
L1 | アクティブリカバリー | ~68% |
L2 | エンデュランス | 69~83% |
L3 | テンポ | 84~94% |
L4 | スイートスポット | 95~98% |
LT | 95~105% | |
L5 | VO2max | 106%~ |
L6 | アネロビック(AC無酸素性運動) | N/a |
食事管理でトレーニング効率を上げる
トレーニング後の食事で筋肉をしっかり回復させ、パワーを維持することは非常に大事です。また、ヒルクライムは体重が軽い方が圧倒的に有利なので、無理なく減量もしておきたいですね。
そこでおすすめなのは、植物性の食品です。植物性タンパク質は胃にやさしく、消化に使うエネルギーを筋肉の回復に使えます。しかし食卓から肉などの動物性食品をなくすと、タンパク質が不足してしまいます。
なので、野菜類を中心としたメニューに、納豆や豆腐、アボカドなどで植物性タンパク質を補給するといいですね。脂質はえごま油やオリーブオイルで補うといいでしょう。
ただし、あまりストイックな食事制限はストレスにもなりますから、無理しない程度にたまにはラーメンやステーキを食べるのはアリです。
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